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空の追憶の果て。 ―Wishes upon the sky―

自他共に認める永遠の146センチの創作・エンタメブログです。おもに小話や短編、その他創作などをのんびりと更新していくことになると思います。なお、小説類は転載・持ち帰り禁止です。



 最近、奈々に会えていない。
家は隣だからすぐ会えるはずなのに、ここ1週間…いや1ヶ月も彼女の顔を見ていない。

「うー…奈々不足だよ、真」
「家隣なんやろ?いつでも会えるやん」
「会えてたらこんなこといってない!」
 ああそうですか、と真に冷たくあしらわれ、俺はどうにもやり切れなくなって組んだ腕に突っ伏した。疲労がたまっているせいか、すぐに眠気が襲ってくる。
「奈々…」
 これが神様の下した「22歳になる前の試練」なら、あんまりだ―。


 確かに、自分にとって今は大事な時期だ。まるで試練のようにいくつも大きな仕事をもらって(とても幸せなことなのだけれど)、毎日スケジュールがびっしり入っている。
ライブだって成功させたかったし、雑誌やテレビの仕事、さらには舞台にもオファーをもらうようになった。
 仕事上の試練なら、何も文句は言わない。どんなにそれが厳しいものでもハードルが高ければ高いほど得られるものは多いし、むしろ自分に厳しい試練を課していきたいと思っている。
 それに奈々だって、同じ事務所のオーディションに受かって目下レッスンに励んでいる最中だ。だから奈々が頑張ってる分、俺だって頑張りたい。

 でもその「仕事人間・西坂隆」の裏には普通の人間としての「西坂隆」も存在するわけで。
奈々とならうまくバランスをとってやっていけるって思ってたけど、
…こう数週間も顔さえ見れず、声さえ聞けない状態が続くと正直辛い。
 それに奈々からも何の連絡もない。
俺のこと、忘れちゃったのかな。武道館の時も楽屋に差し入れが届いて「お疲れさま」のメールがあっただけだった。俺だって楽屋に奈々が来ちゃいけないことくらいはわかってるし、目立つようなことはしちゃいけないこともわかってるけど。
 もうすぐ、俺の誕生日なんだよ?
奈々に、会いたい。会いたくて会いたくて、仕方がない。


「…か…隆!!」
「ん…なな…?」
「だれが奈々ちゃんやねん。休憩時間、終わったで?」
 もうほんまに世話のやける、とぶつくさ言いながら真はカメラの前に戻っていく。
それをぼんやり見遣ってようやく休憩中に寝てしまっていたのを自覚した。
 雑誌のインタビューは、つい最近終わった武道館ライブと近況報告、それから俺の誕生日のこと。横にはいつも通り、真がいる。
「じゃあ、誕生日には何が欲しい?」
 ライターさんの問いに、思わず「奈々」と言いかけ、机の下で真に足を蹴られた。
ツッコミにしては地味に痛い。咄嗟に得意の笑顔をつくってごまかした。
「な…っ、真の笑顔かな、とりあえず!」
「なんやそれ、気持ち悪っ」
「気持ち悪いだとぉ?」
 俺はすかさず真が防御する前に脇腹を攻撃する。
「あははっ隆やめろって!くすぐったい!!腹よじれる!」
 真の無邪気な笑顔がやけに疎ましく感じてしまった。
最近、真には莉央ちゃんっていうそれは可愛い彼女ができて、なんだかんだと悩んでた真も今では毎日人が変わったように幸せそうだ。まぁ、相変わらずシャイな所とかは変わらないんだけど、どうやらその彼女さんは大人な子でツンデレな真のことをちゃんと理解しているらしい。
 奈々も大人なんだけど、俺の束縛屋な性格やすぐ不安になるところまではわかっていない。
いや、奈々がわかってないんじゃない…。
俺が、強がって見せていないんだ。


 取材のあとは、もう一つ別の雑誌の取材の仕事が入っていた。もちろん、これも真と一緒。だから車を持っていない俺は真の運転する車で次の仕事場へと向かう。
「隆、また奈々ちゃんのこと考えてるんやろ。隆が無口やとなんか怖い」
「まるで俺がいつもうるさいみたいじゃん。…今日は疲れてるだけだよ」
 そう言って作り笑いをした俺を、運転しながら真は心配そうにちらりと見た。
「そんな無理せんでもええのに…素直やないのも隆らしくないで?」
「俺は素直だよ?無理なんかちっともしてないし」
「…隆って時々そういう顔してるやんか」
 唐突に、真がそんなことを言い出した。
「そういう顔って…」
「隆は確かに誰にでもオープンやし自分の感情に素直やと思うよ。でも、周りに変な気使ってるときある。弱い自分は見せたらあかんって思ってるんやろ?最後の最後まで我慢して、人一倍傷ついて。つくり笑顔してるときは、辛いの堪えてる証拠や」
 真剣な顔の真を見て、いつのまにこんな大人なこと言うやつになったんだろう、と俺は驚いていた。
「俺、莉央といてわかったことがあって。一人で悩んで大事なこと伝えられへんかったら、大事なものも失ってしまうねん。その悩んでる不安な気持ちなんて相手にわかるわけない…言葉にせんと伝わらんのやって、わかったんや。
 弱くても格好悪くても、もし嫌われたとしても…ちゃんと伝えんかったら手遅れになる。そのときに後悔しても、もう遅いんや」
「…。真、あのさ」
 年下の真に諭されるなんて俺らしくない、そう思いながらも気づくと俺は口を開いていた。
「うん?」
「俺ってさ…?束縛、激しいじゃん」
「うん。自他共に認めるくらいやもんな」
「そこはフォローいれてよ」
「だって事実やろ。よく自分で言うてるくせに」
「うん、言ってる。」

 そのあと黙りこんでしまった俺に、真は優しく「で?」と話の続きを促してくれた。
 真は、俺の独り言のような話を前を向いたまま聞いていてくれた。きっと、運転してなくても人の顔を見ながら話を聞くなんてことはしないんだろうけど、今はそんな彼の性格が逆に助けになった。
 俺は、今の気持ちをできる限り言葉にして話した。

 今までいろんな恋をしてきたけど、昔から俺は気の許した人にはかなりオープンで、その結果、騙されたり振られたり、たくさん傷ついてきた。
でもやっぱり人は嫌いになれなくて…でも傷つくのはもういやだったから、無理に人ばかりじゃなくてもいいじゃないかと夢中になれるものを見つけて生きてきた。そんな中で奈々と出会って、久しぶりに人に恋をして…離したくない、と思ったんだ。
想えば想うほど、奈々を俺だけの奈々にしたくて。でもそれって、奈々の夢も友達も世界も、奪ってしまうことになる。それくらい、自分は束縛してしまうってわかってるから。それならいっそ…俺が全部我慢すればいい。
そう思ってたんだ。

俺は「物わかりのいい彼氏」になんてなれないから、大切だと思えば思うほど奈々を傷つけてしまう。
きっと…絶対に。
だから、俺は奈々の前で本当の気持ちを出しちゃいけない。
「本当の自分」を、見せちゃいけないんだって―。


「でも本当は…辛くて限界で。奈々に会いたくて…独り占めしたくて…だけどそんなの許されることじゃないから…」
「それが、隆の今の気持ちなん?」
 うっすらと声を潤ませた俺とは対照的に、真はしっかりとした声で尋ねた。
「ん…言えないけど、ね」
  何だか情けなくなって苦笑いした俺に、真は口角をあげて言った。
「それ奈々ちゃんに言うたらええやん。俺に言えるんやから、言えるやろ」
「…でも、」
「隆気付いてへんみたいやけど、あれだけテレビや雑誌で自分は束縛激しいですーとか言ってたらとっくに奈々ちゃんわかってると思うけどな」

 俺の誕生日まで、そのあとの真の言葉はずっと俺の胸の奥に引っかかっていた。

『隆って、肝心な人には素直ちゃうんやな』

―…。


誕生日の日も、結局夜中過ぎまで仕事が続いた。気付けば、もう日付は10月1日。
「…結局奈々とは誕生日にも話さずじまい、か」

22歳の誕生日。
いろんな人に「おめでとう」を言ってもらいはしたけれど、肝心の奈々からの「おめでとう」はなかった。
俺だってもう子供じゃないんだから、別にプレゼントに期待してたわけでもケーキが欲しかったわけでもなんでもない。
ただ…俺が欲しかったのは大事な人からのたった一言だった。
でも考えてみれば会いに行かなかったのは俺だし。奈々だってもしかしたら…俺が無理してでも会いにいかなかったことに愛想を尽かしたのかもしれない。

 俺が家に帰ったのは夜明けで、奈々がいるはずの隣の家はシンとしていた。
自分の家の鍵を差し込みながら、俺は隣のドアを見つめてそっと呟いた。
「…奈々…ごめんな」
 そしてドアに鍵を差し込もうとした矢先、高めの声が隣のドアから聞こえてきた。
「…隆?そこにいるの?」
「え?」
 しばらく聞いていなかった、奈々の声。カチャ、という音と共にさっきまでシンとしていたドアが開いて、そこから顔をのぞかせたのは紛れもなく奈々だった。
「奈々?なんでこんな時間……てかなんで起きてんの」
 今すぐ抱きしめたい衝動を必死に抑えて、俺は目を丸くして奈々に尋ねた。もっとも、奈々が答える前に答えはわかった。奈々の目は今起きたばかりという風だった。
「隆にどうしても言いたいことがあって、待ってたんだけど…ごめん、いつのまにか玄関で眠っちゃってたみたい。そんなことより、隆、あのね」
 ふわ、と廊下に吹いた風に乗って、奈々の香りがする。
「誕生日、おめでとう。電話できなくてごめんね。仕事忙しそうだから邪魔しちゃいけないと思って…これ、私からの誕生日プレゼント。一日遅れちゃったけど…」
 そう言って奈々が手渡してくれたのはCDディスクと封筒、それにラッピングされた箱とタッパーに入った一切れの可愛らしいケーキだった。

「…封筒と箱、開けてもいい?」
「え、ここで?…いい、よ」
 奈々は少しだけ、いつもするように頬を赤くした。封筒の中から出てきたのは、手紙ではなく小さな歌詞カードのような紙だった。そして箱からは、小さなピアス。
紙には、
「隆へ。特別にスタジオを貸してもらって作りました。隆の大好きな曲だよ」
 そして、俺の大好きな、オーディションに受かる前から奈々がいつも歌っている奈々の歌にアレンジがついたものが書かれていた。

 その歌詞の、最後の数節―アレンジしてある部分を読見終わった瞬間、俺はそれを持ったまま奈々を抱きしめていた。
「隆?ここ、廊下…」
 制止する彼女の赤い顔を誰にも見えないように、そっと掌で奈々の頬を包んだ。


 毎年、これからの俺の誕生日には、ただ愛しい君の俺だけに向けられる笑顔が欲しいな。
それさえあれば、俺の誕生日にはもう何もいらないよ。


『どんなあなただって
弱くても 恰好悪くても 例えさみしがり屋だったとしても
全て愛しい
私を想ってくれている 大切なあなただから
淋しい時あなたが必要とする人が どうか私でありますように』



―想いはきっと、通じ合ってる。




**********



遅ればせながら…隆の誕生日小説です。(遅すぎるよっ

 もういっそこの日を誕生日にしてしまおうかとも考えましたが、そしたら9月生まれの設定にした意味がない!(9月生まれで書いているので)
なんだか懐かしい…実はこの時点で1年半くらいは続いてますね…彼らにはずっと寄り添っていってほしいです。はい。

ちなみにこれはあくまで空想上のお話なので、まったくなんらモデル(知ってる人は知っている)の性格とは違います。

 …うーん、なんだかこのお話についてはあまり語りすぎない方がいいかもしれない;

では、サプライズ番外編でした!お楽しみいただけたでしょうか?
現在書いている「桜物語。」の方もよろしくお願いします!

もしよければコメントお願いします。
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