FC2ブログ

空の追憶の果て。 ―Wishes upon the sky―

自他共に認める永遠の146センチの創作・エンタメブログです。おもに小話や短編、その他創作などをのんびりと更新していくことになると思います。なお、小説類は転載・持ち帰り禁止です。

花言葉物語 seasonal
スプレーカーネーション(ショコラ)



決して愛らしく飾られた見た目ではないけれど。
甘く鮮やかな、あるいは可憐な色合いは持ちあわせていないけど。

それでも、そんな素朴な私を、好いてくれませんか。




「美味しそう」
「え?」
「それ、携帯。」
「あ、ああ。お気に入り、なんだ。ガラケーなんだけど」
「いいんじゃね?可愛いし」

それが、転入して初めて咲月が男の子と交わした会話だった。
前の学校でも、校則が緩かったばかりに比較的おしゃれな子達が多い中で、咲月は埋もれてしまうタイプだった。
服のセンスにも自信がないし、髪型もアレンジなんてできない。極めつけは、人見知り。
けれど、咲月は小物には人一倍こだわりがあった。

携帯だって、デザインに一目惚れした限定もので。運命的なタイミングで出会ったそれを手にいれるために、在庫のあるお店を探しわざわざおばあちゃんの住む地方支店で予約してもらった。
チョコレートシロップのかかった、ビスケットモチーフの携帯。
色んな人にいいねと言ってもらったけれど、その時ほどこの携帯に感謝したことはない。

「可愛いし」といった彼は淡々と呟くなり咲月の反応も待たずに前を向いてしまった。

笑顔がとびきり爽やかなわけでもない。
顔が整っているわけでも、親交的なわけでもない。
ぶっきらぼうな印象の彼に、咲月はその時恋をした。



そして、今も、恋をしている。
今では席どころかクラスも離れてしまったけれど、何故か諦めようと思うタイミングで声をかけられたりして。
何気ないことだとわかってはいるのに、それだけで咲月の心は一喜一憂してしまう。
それだけ好きなんだったら、一回くらい伝えないと損だよ!
何気なく話した友人にそう言われて、小さな勇気の芽が生えた。

無愛想だけど他人を思いやれるところのある彼は、人気者で。
きっとたくさんの女の子から、友チョコなり本命なりをもらうのだろう。
チョコだけでは、咲月はいつものように埋もれてしまう。

ふと、携帯と目が合った。
そうだ、そうしよう。
咲月は思考を凝らしはじめた。
卓上の携帯が頑張れ、とでもいうようにアクリルのチョコレートを瞬かせた。




一見変わらない教室だけれど、やはり特別な空気。
2月14日という今日を、誰もが少なからず意識していた。
それは単に告白云々や何個チョコがもらえるかだけでなくて、いわゆる「友チョコ」というのが女子の間で盛んだからだ。
気合いの入ったひとなんか、学年中に配るつもりか徳用チョコが鞄から覗いている。

咲月は、友人にいくつかもらったチョコをしまいながら、そっと奥底にある小箱を確認した。
昨晩から、咲月は何度も同じことを繰り返していた。


いつ渡したらいいだろうか。
どうやって声をかけたら自然なんだろう。


そうしてまごついているうちに、あっという間に昼休みも終わりに近づいてきている。
このままではすぐに放課後が来てしまう。元々それほど接点のない咲月には、帰りに上手く話しかけて渡せる自信はない。

行かなきゃ。渡さなきゃ。
いつも視界に入るだけでどぎまぎしていた咲月が、勇気を振り絞って用意したものだから。

心を決めて咲月は席を立った。
チョコレートビスケットの携帯を制服のポケットに忍ばせて。

「…よし、行こう」



きっと、君はたくさんの、たくさんのチョコをもらうんでしょう。
色鮮やかに飾られた、可愛らしい見た目のチョコを。
砂糖を目一杯含んだ、歯の溶けそうな甘いお菓子を。
だから私は、君が見つけてくれたわたしらしさでいくことにしました。

甘さ控えめ、だけど口応えはふんわりして悪くない。
後味は自然すぎるくらいのクセのなさ。
けれど、なんとなく印象を残すアクセント。
ありのままのわたしで伝えたいんだ。


シンプルな小箱に、チョコレート生地のクッキーを詰めて。
ひとつハートを潜ませて、小箱にも一工夫。
添えた小さなショコラ色のスプレーカーネーションの花言葉は、
「気持ちの高まり」。


あなたのことが、大好きです。


*****

happy st.valentine day!

another episode for valentine→チョコレートコスモス
http://piecesofsky.blog3.fc2.com/tb.php/246-562cf99b
*****

◆カーネーション(スプレー咲き)(カーネーションの総称学名:Dianthus caryophyllus L.)
ナデシコ科、ヨーロッパ・西アジアの地中海沿岸が原産地。12月2日の誕生花。由来には諸説あるが、古代ギリシャ時代載冠式(Coronation)にて月桂冠と同様の扱いで使われていたことなどが代表的である。愛らしいその外観から、古くから愛好家や多様な場面で使われる。
カーネーションの花言葉は色合いで異なっているが、総称自体の花言葉は「女性の愛」「感動」「純粋な愛情」などがある。また、代表的な母の日に贈る花としても有名な赤のカーネーションは「母への愛」などという花言葉を持つ。ちなみに元来母の日の由来となったのは白いカーネーションである。白は「私の愛は生きている」という花言葉で、聖母マリアの涙によってカーネーションが出来たという説からこのようになったといわれている。また、本来はない青色の「ムーンダスト」品種開発に日本の企業が携わっている。青の花言葉は「永遠の幸福」。
上記に出てくるカーネーションのスプレー咲き(1厘ではなく枝分かれして咲いているもの)の花言葉は、文章中でのもの以外に「素朴」「集団美」がある。

◆あとがき
ものすごくいまさらなあとがき失礼いたします(アップ後4日経過)。まず、今年のバレンタインは吹雪…ということで、ある意味七夕より思い人に会うのは難しいバレンタインとなったんではないでしょうか。そんな中蒼海はこの日も真っ白のお部屋におりましたので、「みんな大変そうだなぁ」と雪景色を眺めておりました(苦笑)でも、文章仲間の友人や知人の方に拙いものを考えてみたりサプライズメッセージを考えたりして忙しなく時間を消費できました。
お気づきの方…いないかもですが(え)、以前記事で話したビスケット携帯電話がここで登場しております。
お話自体はともかく携帯は実在のものです。数年前に限定発売された、Q-Pot SH-04というチョコビスケットモチーフです。
URL⇒SH 04C Wikipediaページ
SH 04C 宣伝コピーページ ’ノスタルジックなビスケット’
docomo SH 04C 公式情報ページ
見た目はこのような感じ。
img56678902.jpg
公式のものになりますが、SH 04Cシリーズとしては2パターンありました。MilkとChocoです。
36f3d5182509a8a6ecca91b7be280748.jpg
ちなみに、これに変える前はグラス型携帯というこれまた変わった携帯を持っていました。…はい、小物というか携帯にこだわる咲月ちゃんはそんな蒼海から生まれました(笑)
個人的にはあまりバレンタインを乙女の特別イベントとしては捉えていないのですが(多分育った環境とかも影響しています)、そわそわする男子とか友チョコに気合いを入れる女子とか、色めいてる人達をみると若々しくていいなあと思う方です。おかしいですね、わたしもその人たちと同じ世代のはずなんですが。精神年齢すっかりおばあちゃん。
咲月ちゃんの勇気ある一歩が功を奏すといいなと願ってます。派手じゃなくても、大丈夫可愛いよ!頑張れ!なんて。


written2014.
スポンサーサイト



この記事はブロとも、もしくはパスワードを知っている方のみ閲覧できます
パスワード入力
ブロとも申請
2015.04.03 17:52 | 花言葉物語 Short-short series | トラックバック(-) | コメント(-) |
花言葉物語 Seasonal
ポインセチア




知っているだろうか。
きっと、誰も知らない。
本当はこのために咲いているのではなくて、ひとが勝手にそうと決めてしまったのだと。

わたしは、この日のためでなくて、ただあなたを見守るために咲いたのです。


※※※


「あ、」

外れてる。

ブックマークをいつも通り開いた瞬間、思わず独りごちてしまった。
いつもならあまり気にならないはずの数が目に入ってしまったのは、偶然だったのだろうか。

周りのほぼ全員に変えろと言われる二つ折り機種の携帯。
それの小さな画面に映し出される、この機種でも問題なく利用できるSNSという閉鎖された別次元の世界。
現実とシンクロナイズされているように見える、幻覚と事実の織り交ざった繋がりの糸玉のヒトカケラ、が。
ふと気づいたその日、なくなっていた。




もはや脆い繋がりとなった縁だった。
細い細いファイバーのような関係を「こちらから」手繰り寄せて保っている相手だった。
本当を言うと、今でもあのときの想いもぬくもりも、離れて行ってしまった時の虚無も覚えているのだけど。

ただ純粋なあなたとの過去の想いでにすがりつくだなんて、何より女々しいとわかっていたはずなのに。
どうしても手放せずに、いまのあなたと堂々と向き合えずにいた。
何より、あのとき逃げてしまったのも心地よい距離感が怖くなったのもわたしのほうだったのだから。

知りたいなら、教えてあげようとも思った。
突き放してしまった時に尚それでもわたしを慕っていてくれるようなら、と。
けれど離れてしまってから、それはわたしの思い上がりだったのだとわかった。

心が苦しくて遠ざけたのに、心が引き裂かれたとしても戻れないのだとあとから思い知った。

せめて、と小さな画面の中で繋いでいたあなただった。




――そう、どんなに引き裂いてぼろぼろに傷ついたとしても、もうあの頃には戻れない。

伝えたとしても、愛したとしても、ただひたすらに想い続けたとしても。
どの別の顛末を選んでいたとしても、関係性はきっと変わっていた。
心地よいぬくもりの繭の中から羽化すると、決めてしまったのはわたしの方だけれど。

「裏切られるのも、裏切るのも、何も変わらないか」

同じラインの向こう側。
あの頃はあなたもわたしも、ラインを挟んで同じ位置に立っていた。
ときが過ぎて、あれから二年たって。
その向こう側から消えたのは、あなたか、それとも。




あなたの名を示す文字の羅列を選択しかけているボタンに指をかけて、とめた。

消えたのは、あのとき素直に祝福できなかったわたし。
確かにあなたを大切に思っていた、あのときのわたし。

 年が、明けるころには。
もう一度だけあなたに心からの祝福を。
だから、それまでは。
あなたのために、だなんておこがましい願いを、許してください。



指先ひとつで、あなたとの脆すぎて疲れてしまった細い糸を「再び」手放した。
こんな悲しい関係じゃなく、もう一度目を合わせて久しぶり、もまたね、も交せるように。

二つ折り携帯を閉まって糸玉の世界としばしお別れをする。
紅いカバーのかけられたベッドの中、そばの小さな机に置かれた季節の花に目をやって独りごちてみた。
風もない室内なのに揺れたように思えた真赤の葉は、それでいい、と頷いてみせてくれたようだった。


「おやすみ、」



暫し、お休み。
わたしのあなたへの心よ。
想いは静かに灯を尽きてしまったけれど、
流した血の紅さはきっと夢にまでみるでしょう。
清く純粋に笑っていたあなたの残像も、揺れた紅の葉も、
上手く思い描けずに明日には夢から覚めるでしょう。

――願わくは、あなたにただ幸せを。






      Fin.



◆ポインセチア  (和名 猩々木)
別名:クリスマスフラワー

花言葉は「祝福」「聖なる願い」「清純」「わたしの心は燃えている」「あなたの幸せを願う」。
原産地は中央アメリカ。クリスマスの時期になるとあらゆる場所でみかけられる。
厳密にいうと、12月時期に目にするのは花ではなく葉っぱの状態のものである。冬になり日照時間が短くなることで葉先の方から変色し始める。昨今では、赤でなく白のポインセチアもみられる。
鉢植えとして観賞用に栽培されているものがほとんどだが、地植えでも生育させることができる。
見た目は綺麗だが毒性があり、皮膚炎や水泡を引き起こす有毒成分が含まれている。
その葉の赤さはキリストの血の色にもたとえられていると言う説がある。クリスマスフラワーと称されているが、特にクリスマスに関係する事象から由来したものではない。


********
≪注意書き:このあとがきは過去のクリスマス時期にアップした記事の際書いたものですので、多少齟齬がありますがあしからず。≫
◆あとがき(後日追記)
いつのまにやら拍手してくれた方がたくさん…ありがとうございます。
まさかこんなにこのお話に反応してくださる方がいるとは思いませんでした。
せっかくなので余計な事を語って台無しにしてしまうとあれですからあまり多くはあとがきしないことにしますが、
SNS云々の繋がりに関して多々感じるところがあるのは蒼海です(苦笑)
結構昭和な考えを持っている人間だからか、それともみなさんも感じる瞬間があるのかはわかりませんが、
なんだかなぁ…と憂いてしまうことはあったりします。最近はだいぶ鈍感になれるようになりましたが。
蒼海はガラケーなのでまだうっかりフリック、というのがありませんがスマホはさらにありますよね。
こう、文通ブームとか…再来しないかしら…(え

2014.12.01
この記事はブロとも、もしくはパスワードを知っている方のみ閲覧できます
パスワード入力
ブロとも申請
2014.08.24 21:39 | 花言葉物語 Short-short series | トラックバック(-) | コメント(-) |
【追記お知らせ 2014年11月7日】
ただいまこのお話がみんもっこす様が主催なさっている小説トーナメント「自作短編小説3」に参加中です。
強豪の方々が参加なさっている中、蒼海まさかの準決勝です。おばあちゃんがんばって…!
思ったよりおばあちゃんを応援していただき感謝しております。いつものごとくあと数時間ですが応援いただけたら嬉しい限りです!!
http://novel.blogmura.com/tment_vot/10_9558.html



うちのおばあちゃんは、りんごをたくさん買うのが日課だ。

花言葉物語 5 林檎の花

「お母さん、またこんなにりんご買い込んで!」
「今日のりんごはちょうど熟れどきやったけん」
「ひとりじゃどうせ食べきれんのに、まったくもう何しよん!」

 私のお母さんはよくそのことを怒る。おばあちゃんは近所に住んでるとはいえ一人暮らしで、食が太いほうでもないのでそれらのりんごたちは結局半分腐ったりしてしまうからだ。大抵はお仏壇に置いてあって、おばあちゃんは食べない。
以前「お仏壇の腐ったら不吉なんと違うの?」と訊いたら、
『あれは仏さんが食べとるってことやけん不吉やないんよ』という返事が返ってきた。
お母さん曰く「おばあちゃんのヘリクツ」らしいが、本当なのかどうかはわからない。そういうことは信じるひと次第だと思うし、うちの家庭は無宗教なのでそうなのか、とそこで収めるしかない。
 ちなみにおばあちゃんは特別りんごが大好きというわけでもない。
甘いものは好きだけれど、どちらかといえば菓子パンやら缶詰が好きで他のくだものを冷蔵庫に見かけることはない。
 でも、りんごだけは1日にいくつも必ず買ってくるのだ。

「また腐らせるのがオチでしょう。お母さんええ加減にして、もったいないわ」
 お母さんがなおも語気を強めたけれど、おばあちゃんはどこ吹く風といった感じで会話すら請け合わなくなった。
 買ってきたりんごを大事そうに抱えて、いそいそと冷蔵庫へ向かう。今日は少なくとも5つ以上はある。腕も細くてもう力もあまりないのに、よくそれだけ重いものを持って帰ってきたなぁと感心してしまう。
「もう。マイコ、今日おばあちゃん家でごはん食べるけんおつかい行ってきて」
 興奮冷めやらぬお母さんが怪訝な顔をしたまま私に言った。
「え、おばあちゃんさっき買い物いってきたんと違うん」
 驚いて尋ねると、お母さんは呆れた表情をしておばあちゃんを見やりため息をついた。
「おばあちゃんりんごしか買うてこんかったんやって」


「マイコ」
 おつかいのメモを受け取って玄関で靴をはいていると、おばあちゃんに呼びかけられた。
「なに?」
「これ、使っていき。帰り重たいけんね」
 そう言っておばあちゃんが渡してきたのはコロコロだった。よく他のおばあさんが買い物に使っているあれだ。
「おばあちゃんも持ってたん」
「そら、おばあちゃんももう歳やもん。いつお迎えが来てもおかしくないくらいよ」

 おばあちゃんは顔をくしゃりと皺だらけにして笑った。

*****

 いつもは車で遠くのサティまで買いに行くけれど、今日は歩きなので近くの商店街に向かう。

「おお、マイコちゃんやないの!」
 ケヤキの並木道を通っていると、商店街のぞうさい屋さんをしているおじちゃんに声をかけられた。
めったに顔を出さないとはいえ、商店街のおじちゃんやおばちゃんには小さいころからおばあちゃんと行っているので可愛がってもらっている。最近ではここらへんもさびれてしまって閉店してしまうところも多いけど、それでも続けているお店もあるのだ。
「久しぶりやねー、ちょっと見ん間にまた大きなって!」
「おじちゃん、数か月前に会うたやないの」
「あら、そうやったかいね?あかんなぁ、最近物忘れが激しなってしもて」
 歳やなぁ。そう言うおじちゃんの言葉に、さっきのおばあちゃんの皺が濃くなった笑顔が浮かんだ。
おじちゃんのところに一緒に買い物に行っていたころに比べると、おばあちゃんは化粧っ気もなくなり確かに年をとったと思う。
「今日はおつかいか?」
「うん、そこの八百屋さんまで」
「ほうか。あそこもなぁ、もうすぐないなるからなぁ」
「えっあそこ閉まってまうの?」
「お客さんがおらんけんのう。それに、跡継ぎもこの町を出てしもてるし」
「そうなん」
「隣の果物屋はどうか知らんけどな。」
 うちも危ないなぁそろそろ、と自転車をおし行こうとするおじちゃん。
ふと、おばあちゃんがいつもりんごを買うのはその果物屋だということを思い出して私はつい尋ねていた。
「おじちゃん」
「ん?」
「うちのおばあちゃんいつもあそこでりんご買うてるんだけど―…」

*****

「ただいま」
「おかえりー」
 帰宅して玄関で靴を脱いでいると、おばあちゃんが居間につながる廊下の方から出てきた。
「マイコ、おかえり」
「ただいま。これありがとう、ここ置いとくね」
 買い物が入っていたコロコロを玄関の隅に置くと、おばあちゃんは「全然ええんよ」とまたくしゃりと笑った。
「富阪のおじちゃんに会うたよ」
「あらほんと。元気にしとった?」
「うん、またおいでーって言うとった」
「ほな行こうかね。またいけなくならんうちに」
 その言葉がさびしげに響いた気がして、背中を向けて戻ろうとするおばあちゃんを呼び止めた。
「おばあちゃん」
「ん?」
「…あの、その、…りんごのことなんだけど」
「うん?」

「おじいちゃんが、りんご好きだったんだね」


 おじいちゃんがりんご食べてたんだね。

『うちのおばあちゃんいつもあそこでりんご買うてるんだけど、いつから買い始めたかわかる?』
『ああ、フミさんか。うんとな、おいが大分若いころからやったなぁ…』
―そう、マイコのおじいちゃんがまだ元気にしとったころやな。
『おじいちゃんがいたころ?』
『そうよ。ジロウさんがな、ここのりんごが大好きでなぁ』
―他と同じとこのなんやけどな。どうしてもここのじゃないとだめや言うてな。
『ジロウさんとな、フミさんが結婚してすぐのころよう二人で買いに来てたよ』


「…トシちゃんたら、おしゃべりやねぇ」
 おばあちゃんは、秘密ごとが見つかってしまった少女のように、恥ずかしそうにはにかんだ。
まるでその当時に戻ったかのごとく視線を遠くに向けておばあちゃんは話してくれた。
私のおじいちゃんにあたる”ジロウさん”と、おばあちゃんの遠い昔のお話。

 フミさんとジロウさんが出逢ったのは、お見合いの縁談でのことになる。
当時はあたりまえだったお見合い結婚だったが、事情があってその時代にはめずらしくジロウさんがフミさんの家へ婿に入る形の結婚だった。とはいえ二人は両家が”選んだ”相手同士であり、それ以前に顔見知りだったわけでも恋人でもなかった。
そのためお互いを知らないフミさんとジロウさんは、結婚当初ぎこちない生活をおくり互いの距離を測りかねていた。二人とも不器用で初々しく、中々に人見知りだったのである。
 特に口数の少なく何事にも淡々とした態度のジロウさんに、フミさんは日々どうしたら夫婦になれるかと試行錯誤していた。
そんな折、フミさんが一番上のお姉さんに庭に埋めて育てるといいとリンゴの苗木をもらってきた。
幸いちょうど中庭のすみにスペースがあり、フミさんはそこに植えて育てることにした。
 最初はフミさんだけがリンゴの木の世話をしていたのだが、いつのまにやらジロウさんも世話をするようになった。次第にジロウさんのほうが何かと気にかけるようになり、時折中庭のリンゴの木の前に立っては話しかけていたという。
 ちょうどそのころだ。
 偶然二人で商店街の果物やを通りかかり、真っ赤に熟れたりんごが店頭に並んでいた。
 家のリンゴの木はまだ実がなっておらず、花すらきちんと咲くかどうかあやしかった。特に知識もなくひとに聞いたりしながら奔放に育てているものなので実がならなくともいいだろうとフミさんは思っていた。
しかしそこで何を思ったのか、ジロウさんは果物やでリンゴをたったひとつだけ買い、帰宅するなり中庭へ向かったのである。
 リンゴを木の前に置くと、彼はこう言った。リンゴの木に向かって。

”おまえを植えてくれたひとはな、俺が出逢った中で一番やさしくて美しいひとなんじゃ。だからおまえはそんな人に大切にしてもろてることを名誉に思えよ。そんでな、こんな風に美味しそうなリンゴを毎年咲かせてくれ。
俺が生きている限り、フミさんという選択は最高の名誉だってことを思い出させてくれ”

ジロウさんはついぞ振り向きはしなかったが、フミさんは思わず赤面した頬を手で覆って隠した。

それから数か月経って、しかるべき頃。
リンゴの木は見事に二つのリンゴの花を咲かせた。そしてうち一つが、立派なリンゴの実となった。
その年から毎年、ひとつだけなるリンゴをフミさんとジロウさんは食べるのが決まりになった。

「いまは、ないの?そのリンゴの木」
「おじいちゃんがねぇ、お迎えが来たときに一緒に昇って行ってしまったんよ」
 仏様のもとへね。
そう言って、寂しそうに、けれどおだやかに、おばあちゃんは微笑(わら)った。


 だから、すべての始まりの、”選ばれた恋”の始まりの、お店のリンゴを。
 おばあちゃんは今日もおじいちゃんに買ってくる。

”わたしの選択も、間違いなく実を結び、いまでも名誉ですよ”



 林檎の花は禁忌ですか。
 いいえ。わたしはこの選択は正しかったと、誇りを持って言えます。
 こんなに今、幸せにあなたを想えているのだから。


*******

◆りんごの花
5月11日の誕生花。(諸説あり)
林檎の花言葉は”選ばれた恋”。
主な花言葉としては「選択」「名声」「誘惑」「最も美しい人に」「最もやさしき女性へ」
りんごはそのほかに木、花、実にわけて花言葉があり、
木は「名誉」、花は「選択」「評判」、などがあるそうです。
りんごの花を県花としているのは日本で唯一青森県のみ。
ちなみに:りんご(林檎、学名:Malus pumila)は、バラ科リンゴ属の落葉高木樹。またはその果実のこと。日本における植物学ではセイヨウリンゴと呼ぶ。

180px-Apple_blossoms.jpg


◆あとがき
5月11日といえば、母の日ですよね。連想する花としてはカーネーションかと思います。しかし、カーネーションは惜しくも5月9日の誕生花のようで。最初は普通にりんごをコロコロ(世間ではなんというんでしょうか、あれ)にたくさんいれて買い物してくるおばあちゃんのお話にする予定でした。しかし、ふと気になって花言葉を調べたのと、”りんごを買う”からの完全見切り発車だった、というのがありまして最終的にこのようなお話に着地しました。(笑)
これは珍しくBGMなるものでなく、風景描写から始まったものです。一応、蒼海の親しい地域で素朴な地域がいいな、ということで愛媛地域の設定になっています。地元ではないので方便のあたりは私が知っている範囲ですが。
結構りんごという”もの”が好きです。というのも、聖書の話からのイメージが強いからかりんごとつく創作だったり音楽だったり、芸術作品には”禁忌”や”男女””生”的な印象があります。純粋で甘い、というよりかは、サバイバルゲームの支配人だったり脾肉と人間そのものが持つどこかほの暗い倫理観なんかの象徴、というか…。黒の背景が似合う果物かなと。
完全に余談ですが、たまに映像作品なんかである落下して粉砕されるりんごの逆再生が好きです。昔松本潤さん時期の金田一でのEDが逆再生とかの水やら小物を使ったすごくスタイリッシュでニヒルな映像で子供ながらに衝撃だった覚えがあります。あとは、LIAR GAMEとか、SPECとか…うん、不条理系ですね(笑)

話がまた戻りますが、カーネーションも色で花言葉が違ったりして面白いなぁと思っているのでいつか書きたいと思っています。音か風景がおちてきたらばまたいずれ…
ちなみに蒼海は母の日に一般的なカーネーションでなく一風変わった色を組み合わせてみました。花言葉込みです。←
DVC00174.jpg

(花言葉追記13日)
(あとがき18日追記)





もしよかったらランキングにご協力お願いします!
にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村