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空の追憶の果て。 ―Wishes upon the sky―

自他共に認める永遠の146センチの創作・エンタメブログです。おもに小話や短編、その他創作などをのんびりと更新していくことになると思います。なお、小説類は転載・持ち帰り禁止です。

涙の数だけ強くなれるよ
アスファルトに咲く花のように
みるもの全てに怯えないで
明日は来るよ 君のために―…

「明日はくーるよ君のためにぃー…………はぁ」
思わず、ため息。
涙の数だけ強くなれる。小さな頃からチヒロが大好きな唄。
幼い頃、先生が泣き虫なチヒロにこの歌を教えてくれた。

だけど現実的には、涙の数だけ強がりになるんじゃないか?
そう、最近チヒロは思っていた。

だって、ちっとも強くなれやしない。
泣いた分だけ余計空しくなって、泣いた自分なんて恥ずかしくって怖くて誰にも見せられなくて。
どんどん殻をまとっていく。
生まれたときに棄てたはずの殻。
そうやって自分は殻をまとって、赤ちゃんに戻って、生まれ落ちる前の何もできない自分に戻る。

だから今だって、授業をサボってこんなところにいたりするんだ。
余計な反発心抱えて、ぐちゃぐちゃになって矛盾した虚無感にじっとあの椅子に座ってもいられなくて。

「大体、泣いてもアスファルトの上に落ちたら意味ないよ」

足元に広がる灰の地面を見下ろしそう呟いて、またため息をつく。


時々、世界が何にもわからなくなるときがある。
混沌としたこの世界は何が正しくて、何が悪いことで、どうしたら自分は自分だと胸を張って言えるんだろうとか。
そもそも私ってなに、とか。
起きたら用意されてる朝ごはんも、通いなれた通学路も、黒板も、クラスメイトの中身のないお喋りも。
全部が私の知らない、どこか異国の果てみたい。
私だけが違う。なにかが違う。
常識ってなんだっけ、普通ってなんだっけ。


「明日は来るよ、君のために…」
冒頭から歌い直す。
もし歌声が校庭に響いて、先生に見つかってもそれはそれでいいや。
というより、もう、なんだか、全部が。

チヒロはそんなことを考えながら足をぶらつかせはじめた。


「いい歌だなーそれ。なんていう歌?」
「え」
下を見る。
水槽タンクのある段の淵に腰掛けていたチヒロのちょうど真下、昇降用の梯子があるあたりで男子が見上げていた。
「パンツ、見えるよ。そんな足開いてっと」
言われて慌てて閉じた。
足を引き上げて、コンクリートに正座する形で下をのぞきこむ体勢になる。
「…誰」
「通りすがりのサボり常習犯。まあ、名乗るほどのものじゃないし」
飄々と言ってのけて、壁にもたれかかるとチヒロの方は見上げずに彼は訊いてくる。
「で、なんの唄?聞いたことある気がするけど曲名思い付かないや」
「…TOMORROW」
「誰が唄ってんの?最近のひと?」
「岡本真夜。1995年の曲」
「うわもう大昔じゃん。よく知ってんね」
「大昔じゃないし。私が幼稚園のときに流行ってたし」
「あーそうなんだ。俺、あんまりその頃の流行知らないから」

淡々と返ってくるトーンは満更嘘ではなさそうだった。帰国子女か訳ありだろうか。
幼少時代にかなり流行った社会現象の曲だと思うので、曲自体を知らないという理由には少し興味をそそられた。

「好きな曲なんだ」

聞かれてもいないのに、徐にそう独りごちてみた。
梯子の下の名無しの彼からは「ふうん」と味気ない返事が帰ってきた。

「まぁ、涙の数だけ強くなれるかは、今んとこわからないけど」
 泣いたって現実が変わる訳じゃないし。
「泣くのって自己満足な気がする。可哀想に思ってもらいたいとかさ、とりあえず悲しいとか、泣けばなんとかなるとか」

気がつけば、初対面相手にチヒロはあふれでるように喋っていた。
自分でも何をいっているのか、よくわからなくなってくる。
とりあえず、すごく面倒くさい人間に見えるだろうと頭の隅で考えながらも、口が止まるわけじゃなく。

ずっと見えていた名も知らぬ彼の頭がゆっくり揺れて、チヒロを見上げてきた。
露になった顔立ちに、どことなく見覚えはあった気がした。たぶん、一言二言交わしたくらいのすれ違いだけれど。
彼の上げた視線と見下ろしたチヒロの視線がかち合う。


「…で、なんでそんなこと言いながら、泣いてんの」

ぶっきらぼうな言い方だった。
だけど無愛想なくらいのその言葉はチヒロを刺すに十分だった。

深く、柔らかく、抱き締めるように。


「さぁ、なんでだろ」

涙混じりにチヒロは笑い返して、
また
『明日』を最初から歌い始めた。


涙の数だけ強くなれるよ
アスファルトに咲く花のように
みるもの全てに怯えないで
明日は来るよ 君のために

涙の数だけ強くなろうよ
風に揺れている花のように
自分をそのまま 信じていてね
明日は来るよ どんな時も




君に逢えたから
明日はくる。
君に逢うために
明日はくる。
君が涙のわけを聞いてくれるから、明日はくる。
もうアスファルトに吸い込まれるだけの涙じゃないから。




Thanks and/Credit to:
TOMORROW By 岡本真夜



◆あとがき
年代が大体バレるお話。(笑)
幼い頃に流行っていたり教えられた歌って、結構空覚えでいつまでも残っているものです。
Believeとか、手話で小学校でやったりしました。大きな講堂で。
あとから思い返すと音楽に伴った記憶はかなり鮮明に、でも淡い色で残されていて、
それって不思議なものだなあと思います。
当時はすごく純粋に歌詞そのままを受け入れて、意味とか流行とか評価とかあまり気にしないで歌っていたなぁ、と。
年月を経て歌うと、ああこういうことかって思ったり、この意味って?と考え始めたり。

クレジットにも書きましたが曲紹介もしておきますね。
TOMORROW/岡本真夜
www.youtube.com/watch?v=iwjqZAEqCu4

それでは、皆さんの明日が素敵な明日になりますように。




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広末涼子さんの「大スキ!」も作っていた、
あの、岡本真夜さんですね。

第8回自作小説トーナメントへのご参加ありがとうございます。
おかげさまで、盛り上がりそうです。

でも、自分の意志で、授業をサボれるのは、強い子だと思います。
むしろ、矛盾した虚無感を感じたまま、ずっと椅子に縛られている子の方がコワいかな?
「逃げ」て、校舎の上で自分を見つめなおす「勇気」って、大事ですよねー。
そうやって、涙の数だけ強くなっていくんだろーなー
と思える、とても素敵な作品でした。

2015.06.14 00:17 URL | みんもっこす #- [ 編集 ]

この歌が流行っていた時、私は仕事で埼玉におりました。あ、こんなことを書くとばれちゃいますね! 多分、聖奈さんと私の年齢差は……な~んてことは置いときましょう。私も小説を書く時は永遠の青春の中におりますから(*^_^*)
あ、でもでも、最近私などはよく泣きます。しょうもないと分かっているテレビを見ていても……歳をとると、涙腺が弱くなって^^;

さて、久しぶりにトップからスポンサーサイトが消えたので、ご挨拶ついでに応援とコメ書きにまいりました。
こちらの掌編も読ませていただきました。
うんうん、なんかね、こういう歌詞にツッコミを入れるチヒロの気持ち、分かります。そうであったらいいなぁと思うからこそ、ツッコミを入れちゃうんですよね。同じタイプの曲で「負けないで」とかもね、そう言われてもね~って言っちゃうんですよ。でも、心の中では頑張っている自分、足掻いている自分に自分でエールを送って、そしてそんな自分を見つけてもらいたいんですよね。
この出逢いでチヒロが前に向かって進んでいける、そんな予感がほんわりと香る、素敵な掌編でした!
またお邪魔しますね!!

2015.06.16 21:57 URL | 大海彩洋 #nLQskDKw [ 編集 ]

みんもっこすさま

いつもありがとうございます!
そしてトーナメントへのお誘いありがとうございました。
拙作で素晴らしい人たちの中に参加してしまい申し訳ないですが、
今回も大変勉強になりました。

> おかげさまで、盛り上がりそうです。
みんもっこすさまの一言に毎回モチベーションを救われております。
丁寧に作品に対する感想まで残していただき、恐縮です!

> 広末涼子さんの「大スキ!」も作っていた、
> あの、岡本真夜さんですね。

そうです!広末さんとか私の世代は幼少期ど真ん中なのですが、
後の世代はどうやらこういった名曲ぴんとこないようで…(苦笑)

>でも、自分の意志で、授業をサボれるのは、強い子だと思います。
> むしろ、矛盾した虚無感を感じたまま、ずっと椅子に縛られている子の方がコワいかな?

確かにそうですよね。私はどちらかというと、虚無感を机の上で紙に文字書いてぶつけてた方ですが(笑)
最近はおそらくセキュリティ的問題もあるので、こういうのできないのかなと思ったり…

>「逃げ」て、校舎の上で自分を見つめなおす「勇気」って、大事ですよねー。

青春期特有の見つめなおし方なのかもしれないですね。
感想改めてありがとうございまいした!今後も宜しくお願いします!

2015.06.27 20:52 URL | 蒼海 聖奈 #- [ 編集 ]

大海さま

いつもご来訪、コメントありがとうございます!

> この歌が流行っていた時、私は仕事で埼玉におりました。あ、こんなことを書くとばれちゃいますね! 多分、聖奈さんと私の年齢差は……な~んてことは置いときましょう。私も小説を書く時は永遠の青春の中におりますから(*^_^*)

はい、この世界では大丈夫ですよ!でもおそらく大海さんが予想なさっているよりは上かもしれませんが…
親が同世代よりひとまわりうえなので。この世界ではむしろ経験の多さが青春を輝かせると思います!(笑)
ありますよね。私は根が泣き虫だったんですが、感動ものは本当につぼにくると抗えないですよね。

> さて、久しぶりにトップからスポンサーサイトが消えたので、ご挨拶ついでに応援とコメ書きにまいりました。

す、すいません;;いつも来てくださっていて申し訳ない…と思いつつブラウザを閉じる日々が続いてしまい。
7月はわりとひと段落するかなと思うので、こまごまとしたものですが更新はしたいです!

> うんうん、なんかね、こういう歌詞にツッコミを入れるチヒロの気持ち、分かります。そうであったらいいなぁと思うからこそ、ツッコミを入れちゃうんですよね。同じタイプの曲で「負けないで」とかもね、そう言われてもね~って言っちゃうんですよ。でも、心の中では頑張っている自分、足掻いている自分に自分でエールを送って、そしてそんな自分を見つけてもらいたいんですよね。

共感してくださってありがたいです。書いてる人自身けっこう現実思考なんですが、だからこそ、というのはやはり否定しきれないものですよね。かなり筆者の意向も反映されてる作品なので感想いただけてうれしかったです!

鈍足なサイトですが、今後も宜しくお願いします。

2015.06.27 21:11 URL | 蒼海 聖奈 #- [ 編集 ]













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