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空の追憶の果て。 ―Wishes upon the sky―

自他共に認める永遠の146センチの創作・エンタメブログです。おもに小話や短編、その他創作などをのんびりと更新していくことになると思います。なお、小説類は転載・持ち帰り禁止です。

「これから質問するから、それに3秒で答えてね」

突然、彼女はソファでくつろいでいる自分にそう告げた。


エイプリルフール・クイズの女王
April Fool Quiz Queen



「……え?」
「だから、これから質問をいくつかするから、それに答えて。3秒経ったらアウトね」

 さっきまでいつもと変わりなく家でのデートを過ごしていたはずだったのに、何の脈絡もなしに彼女はそれを始めた。普段は突拍子もない会話や理論的でない行動なんて一切とらないタイプの彼女なので一瞬呆然としてしまった。
 彼女とは1年くらいの付き合いだ。知り合ったのは大学に入ってすぐで、随分知人としてくらいの距離だったが4年の夏に告白してOKをもらい、付き合い始めた。就職が決まってからのことだ。
 彼女との未来を真剣に考えていたからかって?いや、別にそういうわけじゃない。もちろん遊びじゃないけど、正確にはやっと恋愛をする余裕ができたからだ。
 最初に知り合った時は正直中の中くらいの印象だったのが、3年生あたりになって急にあか抜けてカワイイ子になった。なんなら、外見的にはもともとストライクの範囲内だったし、その変化で一気に好感度が上がった。それでもその時に「好きだ」とすぐに告白しなかったのはそれが3年のときだったから。就活への準備を本意気ではじめる頃だったし、そのころはまだ単位を取ったりサークル活動に勤しんだりと自分のことで手いっぱいだった。
 だから就職が決まり、自分の未来がとりあえず決まったことに安心したとき、ふと「あ、言っておこう」と思ったのだ。
彼女がOKしてくれるかどうかなんてわからなかったし、今ならフラれてもダメージは少ないという気持ちもあった。それくらいの気概で告白したものだからさらっとOKされて逆に拍子抜けしたくらいだ。
 それからお互い社会人になって、2年目の春。初めてもらった春休みも有意義に終わり、新たな年度の初日、しかも今度は自分たちの下に新人が入ってきた。去年の自分たちを迎えて少し先輩面。そんな日の夜だった。

「なん、」
「1問目。わたしのことは好き?」

「なんで」と聞こうとしたのを遮って、彼女は1問目の問いかけをする。しかも内容がよくドラマや雑誌アンケートで見るあの質問と来た。彼女は本当に一体どうしてしまったのだろう。決してこんな問いかけをするタイプの女じゃないはずなのに。
 そうしている間に、彼女はなんと宣言通り3秒数えはじめた。カウントダウンをされると早く答えねばと思ってしまうのが人間の性で、そうなるとどう答えるのが正しいのかという問題が生じる。
 ここは無難に「好きだよ」と言うのが正解なのか?
けれどそこで学生時代、女先輩に言われたことを思い出す。

―あのね、女は簡単に「好きだよ」とか言われたくないの。さらっと言ったら疑ってかかると思ったほうがいいよ。

どうすればいい、どうする俺?

 選択肢は、いくつかある。
A.「好きだよ」と即答する
B.何も言わず行動で示す(?)
C.曖昧にして話題転換を試みる
D.それっぽく溜めてみる

「3、」

女先輩の言葉を信じるならばAは絶対ダメだ。そもそもがそんな言葉を口にするタイプじゃないので余計に、だ。
Bは?それこそ無理だ。大体答えなきゃいけないんだから行動で示したんじゃ答えにならないだろ。

「2、」

Cはどうだろうか。でも即答がダメなら曖昧にすることもダメなんじゃないか?
Dは…

「い、」
「すっ!…っ」
 アウトはいやだ。咄嗟に、「好きだよ」と応えかけた。けれど女先輩の言った事が呪いのように喉のあたりで重石になって、あと一歩が踏み出せなかった。格好よく答えられるならそれもいいけど、生憎俺はそんな科白が似合う俳優みたいななりはしていない。それに、告白だって俺からだった。俺ばかり何回も好きだ好きだなんてバカみたいだ。
「す?」
 彼女がふふんとでも効果音のつきそうな顔で期待の眼差しを向けてくる。
 なんとなく、変なプライドやらなんやらが自己主張をしてそれ以上従順に言いたくないと思ってしまった。
「す…水曜日、さ、残業しないで帰れそうなんだけど時間空いてる?」
 中々うまく切り返せたんじゃないか?内心自画自賛しながらも視線は先ほどまで読んでいた新聞の記事から外せなかった。
 へ、へーえ、増税に伴って給料のBA(ベースアップ)か。でもうちは中小だから関係ないだろうな。まだ若手だし。
ちらりと視線を隣の彼女へやる。眉根に皺を寄せて不満そうに唇をきゅ、としめていた。結果としてCに近い受け答えをしたことは認めなければならない。そこで女先輩がさらに言っていたことが脳裏を過った。

―でもね、曖昧にするのはもっと駄目よ。大抵の女はそこではぐらかされたら愛想尽かすわね。

 しまった、そうだった!最も選んではいけない答えだ。
 彼女は割と感情の起伏が平淡だからヒステリーは起こさないだろうが、その代わり心中で踏ん切りをつけると潔いタイプだ。今のところ自分関連ではあまり思い起こすことがないが、以前友人に思うところがあった際実に賢くフェードアウトを実行したのを知っている。後に波風を残さないところがなんとも機転が回るので、一番敵になると厄介なタイプだと思う。

「…まあ、正解ってことにしておこうかな。」
「へ、え?」
 少し不服そうながらも彼女はそう言った。思わず給料云々の記事どころじゃなくなり視線をあげた。彼女はじっと俺の顔を見て、今度は怪訝な顔をする。
「何、違うの?」
「何が?」
「何がって、好きって言わないってことは好きじゃないってことでしょう」
「ちが、」
「『今日』好きじゃないって言うってことは好きってことでしょ。」
 違う、と訂正を入れそうになった俺に彼女はそう諭してきた。ん?『今日』好きじゃないって言うことは?
 そこで、まるで光がスパークするみたいに頭の中で意味が解せた。幸運にも卓上に飾ってあるカレンダーで確認する。
―4月1日。エイプリルフールだ。
 『今日』『好きじゃない』という言葉は、すなわち反対の意味になる。四月はじめの嘘ってやつだ。
 だいぶひねた解釈ではあるし、こういった形であれ「好き」という言葉を彼女が欲したのは初めてなので意外だが、付き合う前も付き合ってからも女子にしてはえらくクールで物わかりのいい彼女にもそういうところがあるのだと思うとなんだか可愛い。

 しかしそんな感慨も軽く吹き飛ばすさらなる難問を彼女は出してきた。

「じゃあ、2問目。どれくらい好き?」
「え、どれくらい?」
 どれくらいとは、どういうことだ。これも定番のどこかで聞く質問だが、思い出せるのは妹が見ていたアイドルのライブDVDだかでコントなんかをしていて、片方の女装したヤツの質問に「東京ドーム1000個分くらい」と答えていたことくらいだ。そのときは質問自体はさながら男性アイドルも大変なんだな、と同情を抱いた覚えの方が強かった。ちなみに、その女装したヤツはその答えに「それじゃ全然伝わらない」と言った。当たり前だ、しかもそれなら何故聞いた。
 けど、実際聞かれるとは思わなかった。というか自分の彼女が訊いてくるとはよもや予想しなかった。
「えーと…」
「3、」
 適切な答えを考えているとすぐにカウントダウンが始まる。クイズ番組の芸能人ってこんな気分なのか。

―どれくらいって。好きは好きじゃだめなのか?この場合、どういうのが適切なんだ?
 この質問の場合、さっきの「正反対の意味」という解釈の仕方は通用しない。

「2、」

…いや、案外、使えるんじゃないか。

「あー、えっと、この…この柿の種くらいかな」
 俺はそう言って目の前にたまたま封を開けてあった食べかけの柿ピーの「柿の種」をつまんでみせた。
言い方としても例えも少々苦しかったが、何も答えないとか変な答えをするよりいいだろう。少なくともあのコントの答えより。
 が、彼女は今度こそ黙り込んでしまった。
 ヤバイ。不正解なのか。一度機嫌を損ねると許してくれるまで彼女は相当な時間と労力がかかる。

「中々、癖のきいた例えね。いいわ、正解にしてあげる」
 ピーナッツって言ってたら不正解だったかもしれないけど。
彼女はそんな意味不明な(柿の種といった自分もどんぐりの背比べだが)ことを呟いて、くすりと笑った。ちょっと厚ぼったく見える下唇がいい感じにひきのばされ、整った口になるので彼女のこの笑い方は好きだ。
 明日早いけれど、キスくらいはいいかもな。まだ少し寝るまで時間がある。

 そんな下心を膨らませ、新聞を傍らに置いて彼女との距離を詰めようとした矢先。

「じゃあ、3問目。」
 下心を予知していたかのようにするりとかわして彼女が続けた。
「まだあるのかよ」
 さすがに怪訝な声が出た。油揚げを手前でお預けされた狐の気分だ。
「あるわ。この3問目が一番大事なの」


「3問目。赤ちゃんができたら、産んでほしい?」



(…嘘だろ。)


―さぁ、どう答える?






Fin.
******



【あとがきという名の言い訳】
狂言ちっくにしようかと思っていましたが違う方向に曲がっていってしまったようです(苦笑)完全に外れてはないんですが…
パターンA,Bにしようかなと途中思いましたがこれはこれで彼女が強気な感じなのでいいかなと…
最近周りに色々話を聞いた結果このタイミングでふって湧いたんだと思います。
な、なんとか間に合った…!(笑

ちなみにクレジットしておきますが元ネタとして某グループさんの「クイズの女王」という曲タイトルをお借りしています。
歌詞を見ると結構内容お借りしているので、もし興味のある方は調べてみてください。

Happy April Fool!(幸いな四月馬鹿を。(笑))

*エイプリルフールには、諸説あり一年の嘘をつききるためとか厄払いだとか小さな嘘に限定するとかあるそうです。
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2014.04.07 01:20  | # [ 編集 ]













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