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空の追憶の果て。 ―Wishes upon the sky―

自他共に認める永遠の146センチの創作・エンタメブログです。おもに小話や短編、その他創作などをのんびりと更新していくことになると思います。なお、小説類は転載・持ち帰り禁止です。

ブルー・ランナウェイ
Blue Runaway

白い静けさが早朝の街を包んでいた。
元旦でがらんどうのコインパーキングに車を停め、ふと空気を深く吸い込む。冷たさが喉の奥と伸ばした躰に沁み込み、パキリとでも音を立てそうだった。
視界に入る街はどこかいつもより色褪せていて儚く見えた。
まるで世界がこの時間だけ動きを止めてしまったかのように物音ひとつせず、生活音も聞こえない。
世界にひとり、取り残されたような気分になる。昔、某青い猫型ロボットのアニメで、ダメダメな主人公がとある道具を乱用してひとりぼっちになってしまった話を思いだした。

 コインパーキングを出て、人っ子ひとりいない眠る街へと足を向ける。
街の端々に居酒屋のごみ袋やビールの瓶なんかがあって、先刻までここが賑やかであったことを示していた。
それもそうだろう、昨日は1年という大きな区切りの最後だったのだ。
散乱したその雑多な光景と相反するように空気は澄んでいて、それら全てを昨日で清算したあとの清廉さのようにも思えた。
実際には世界は昨日と同じように巡るだけなのに。
不思議だ、新しい1年になるというただそれだけで、全てが許された気になるなんて。

『この世界は狭すぎるんだ。早く大きな世界に出たい』
 そう言って出てきたあの街に想いを馳せる。
馴染み深く、自分という人間がつくられた最初の場所。
好きで、嫌いで、憎らしくて、なのに愛おしくもある懐かしい小さな世界。
 いつも遊んでいた遊具のさびれた公園。誰かが忘れたスコップのささった砂場。アスファルトのうえに古城みたいにそびえていたマンション。クリーム色にやにが混ざったみたいなアパートの団地で声をあげ走る子供たち。
通学路だった、騒がしい昔ながらの商店街。
 あれはいつだったか、地元の友人と電話をしたときに彼が言っていた。頑固なおじさんがいたたばこ屋の隣、いつみても工事予定になっていた空地がついにコンビニになったと。
派手さはなくとも温かみがあった駅前もすっかり変わったという。
 街は変わっていく。自分はどうだろうか。
 がらんどうの今の光景が、普段胸の奥に隠している空虚感を不意に突いてくる。セピア色の思い出とともに封じていた想いがこぽりと溢れそうに疼き始める。

 夕闇が街を覆うころ、街灯のない空地は格好の待ち合わせ場所だった。公園も、マンションや団地がある通りも、商店街も。
 どの風景を思いだしても、そこには必ずあの娘(こ)の想い出が付随している。
 あれから僕は変われたのだろうか。街が、世界が変わっていくように。

 たん、たん、と自分のスニーカーがたてる軽い音だけがアスファルト上に響く。
誰もいない世界もやはりゆっくりと時間は進んでいて、道端にちらほらと烏がやってきてはひとが残した騒ぎの残骸をついばんで朝食にしている。彼らしかいない中で唯一異なる人間のこちらのほうをときおり興味深そうに見ては、通り過ぎるだけの存在に興味をなくし目の前のごちそうへと意識を戻す。その行動は大して人間と変わらないような気がして、同時にこの街のそんな人となりに随分となれてしまった自分と重なった。
 そうやって生きて、夢を追って、闘って。ときに理不尽さに歯をくいしばる思いもして。
 なんとか形になってきたと振り返る余裕ができた今、客観的に自分をみてふと疑問を抱くこともある。
果たしてこの生き方であっているのだろうかと。
そのたびに間違ってなどいない、自分は大切なモノをひとつ選んで真っ直ぐ生きてきた、嘘はついていない、そう言い聞かせて。
 置いてきたものすべてに、捨ててきたものすべてに後悔はしていない。今と言う未来を得るためには捨てなきゃいけないものだってあったんだ。

 だけど、本当に?
 そう思ってしまう自分を、変わらぬ想いで取り残されている自分を、否定しきれずいつまでも胸の奥に燻らせて。
 セピア色の世界は、もしかしたら夢より大事なモノだったのだろうか。
 そう想うたび、泣き出しそうな柔く弱い自分も確かにいるのだ。
 願っていた未来に近づいているはずのいまと、何かを永遠に失ったと叫び続ける過去と、蒼写真を握りしめ進むしかない未来と。すべてが交錯して、がんじがらめになって。

 通りを抜けて、ちょうど大通りに出る曲がり角に辿りつく。
築年数のたっていそうな、シンプルな白いビルが視界に入ってくる。テナントが入っているかもわからないそのビルの、玄関ではなく横にある螺旋階段へ向かった。
屋上まで続くそれに足をかけ、踏面に踏み込めばカン、と鉄骨で出来たそれは小気味いい音をたてる。
階段を単調なリズムで上がりながら、自然と唇は歌を口ずさんでいた。
 ジャケットのポケットに突っ込んだ手でタバコの箱をもてあそびながら、脳裏に浮かぶのはあの街にいたころ彼女が好きだったメロディーだった。ギターひとつで歌えるような、いまごろの流行しているポップスとは少し違う静かで淡々とした切ない曲調の歌。
 
―『願ってた未来 いま…』

 三が日が終わったら、初めて掴んだチャンスの舞台が始まる。
 あの頃願っていた、いまも追っている未来。確かに近づいたはずの自分。
 近づいたはずなのに。見える景色は輝かしい、はずなのに。

相変わらずの静けさに、落とされた音符のように響く鉄骨の音と自分の口ずさむ歌声は強弱がありながらも吐く息とともに空へと上昇していく。
階段を昇っていくたび、鱗みたいに幾重にも重なっていた強がりが解けていった。

カン。
 吹っ切るように鳴らした音を最後に、屋上へ出る。さすがに階段で屋上まであがると疲れるものであがった息に肩を上下させ、しばし呼吸を整えた。冬の早朝ながら、火照った体に冷たい風が涼しく感じられた。
 伸ばしている前髪が風であおられ、視界が黒く遮られる。かきあげて開けた視界の白い靄がかる街並みに惹かれるようにしてフェンスのほうへ一歩踏み出す。遠くまで見渡せる景観はあの街まで見通せそうで、彼女もこの景色のどこかにいるのだろうかなんて考えた。
 届くだろうか。いまここで君へ約束の歌を唄ったなら。

―『温もりも泣き顔も記念日も…』

 いまの君に、そしてあの日の君に。

『キミだけが―……』

 僕は元気でなんとかやってるよ。いまも、あの頃語った夢を追ってる。
 なあ、やっとチャンスが巡ってきたんだ。もうすぐ太陽がてっぺんに上るよ。
 いままで照れくさくて言えなかったけど。
 君といて、離れてわかったことがある。
 悲しみも温もりも、愛しさも強い想いも。
 悔しさも嬉しさも感動も、夢だって記念日だって全部。
 ぜんぶ、僕自身になっていくってこと。
そんなあたりまえの事だけど、とても大切なこと。
いまはそう思うから…僕はこの世界で今年も生きるよ。

「…3、2、1、」
 明けましておめでとう。
これまでの君にありがとう。これからの君に、よい1年を。

 呟いた言葉が白い吐息となり新しい空気に溶け込むまで、僕は歌を口ずさみながら静けさに佇んでいた。




”    ”だけが足りない世界で、それでも僕は生きてる。

Inspired by: myself/∞
linked with: Blue Runaway(ブルーランナウェイ) written by Sora as Seina Aomi
Edited on Dec. 11 2015.


*****
【ご挨拶】
今年最後の更新およびお話です。
思えばこれのもととなる詩を書いたのは昨年ごろでした。
そのころは白い箱の中にいた蒼海ですが、今年はおかげさまで白い箱の外にとどまることができ、お話を考える時間も設けられました。これもひとえにみなさんのおかげです。
改めまして、まずは今年1年ありがとうございました。
空追。でもたくさんのことが起こった1年でした。
小説トーナメントで優勝させていただいたり、数年前は夢にも思っていなかった10000アクセスを突破したり、お話で小さなご褒美をいただいたり、新しいお話語りの方々とお知り合いになることができたり。
蒼海の未来はまだ不確定ですが、それはどんな方だってそうなのだと思います。
けれど見えない靄の中で、遠く見晴らせる景色を望んで一歩一歩生きているひとがいる。そのことが、当たり前のようであたりまでないそのことを強く感じられた1年でした。
私たちは今日も当たり前のような毎日を奇跡的に過ごして、何かを得るために失って、それでも生きています。
ときには過去が惜しくなることもある。未来がわからないこともある。立ち止まりたくなる、放棄したくなるときもある。

けれどそんな世界だからこそ、もう一歩踏み出してみようと思えるきっかけがあること。背中に手をそえてくれるひとがいること。ただそれだけの小さなことをかみしめて大事にできる自分でいたい。

蒼海にとっては空追。はそんな自分でいられる場所のひとつです。

来年も空追。に来てくださったみなさんに、そしてまだ見ぬひとびとに、素敵な1年が訪れますよう。
今年は大変お世話になりました。来年もなにとぞお願い申し上げます。

12月31日
蒼海聖奈
(2015.0101 再掲)
(2020.0209 再掲)
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